島尾敏雄「島の果て」 成瀬書房初版函極美本、限定415/500部

夢遊病者の中で融け合う、現と幻。戦後文学に於いて孤高の中特異な文学を書きつづけた島尾敏雄。

成瀬書房刊行の限定本が店頭入荷しております。

二重の函に安置された眠り人の、痛む様な言葉と、心。

本文用紙も寝台のシーツの様に白く保たれています。

朱書きの四百拾五。

龍の影はどこか覚束ない飛び石や、島々の連なりを連想させる様です。

関東大震災、第二次大戦の激動を経て、没年に至るまで書く事を止めなかった島尾敏雄。

多忙なる生活の無意識下にて醸成されたその内的文学体験の発露が美しくも切ない一冊になっています。

永井荷風「雑草園」 中央公論社初版函

日本を代表する文学翻訳者にして、繊細で奥行のある随筆を多く遺した永井荷風。

後期の随筆集・雑草園には、彼の文学の完成に至る無数の断片に触れる事が出来ます。

若き日の洒落た装いの荷風。

文学という芸術が、他の多くの文化を牽引していた日々。

大正ごろから戦後間もなくの書籍によく見られるこういった囲み罫は、永井荷風の美文に不思議としっくり馴染む気がします。

翻訳家として溢れる程の海外の思想や文化に触れながらも、その感性の純粋は濁りなく。

雑草に煌めく朝露のように、透明に切り取られた記録に親しめる一冊です。

吉井勇「歌集 遠天」 甲鳥書林初版函美本

荷風の先輩筋にあたり、渋味あるモチーフの中に鋭い幻想美を織り込んだ独自の歌を結実させた吉井勇。

簡潔にして雄弁な甲鳥書林の装丁にて、「遠天」に響く七・七。

何気ない文字組からも品のある「間」を感じます。

歌の題材として取り上げられる事象の土着の匂いと、確かにそこに潜む西洋的な霊感。吉井勇の風雅。

歌集であり、一見すると日本文化に根差した作風にもうつる吉井勇。

しかしながらそこには、耽美幻想文学に花開く多くの種が、静かに鮮やかに眠っています。

邦枝完二「絵入り草子 おせん」 小村雪岱装丁挿画 新小説社初版函美本 

幼少期より育まれた日本的な世俗情緒より出でて、恐るべき美の世界を作り上げた代表作・おせん。

小村雪岱の装丁挿画による、1934年刊行の一冊。保存状態もとても良好です。

函にやや経年のイタミがありますが、雪岱の挿画、本文ともに美しいまま保存されています。

函や挿画にて印象深い青の発色、80年を越えてなお艶やかなその色彩には、何かの秘密が宿っている様です。

当時の国内文学の隆盛を支えた多くの新聞連載作品の中でも異彩を放ち、現代にも愛好家の多い邦枝完二の作品群。

その麗しい官能の極致として、非常に優れた一冊となっています。

ユイスマン「さかしま」 澁澤龍彦訳 桃源社元版函極美 正誤表付き完本

耽美、退廃、魔術。泥沼からの跳躍。世紀末デカダンを代表するユイスマンスの傑作・さかしま。

澁澤龍彦による翻訳を桃源社の熟練した装丁に包み、非常に完成度の高い一冊です。

白い表紙に黒革の背から漂う確固とした美学。

二色刷本文に緻密な挿絵が入り、ページを繰る愉悦も芳醇。

読者カード、新刊案内、そして正誤表付きの完本となります。

函の背以外には一切のイタミもない極美しい保存状態です。

1962年、澁澤龍彦作品としては比較的初期の訳でありながら、ユイスマンの美学との共鳴の中に素晴らしい美文を生み出しています。

指に馴染む冷たい革の感触の中で読む楽しみを是非お味わい下さい。

「筒井菫坡詩歌集」 創樹社 初版函帯極美

若くしてこの世を去る詩人たち、夭逝の一群。

その中にあって一等澄みきった抒情を持っていた筒井菫坡。その短い筆命を辿る良著。

藍色の装丁に、彼の遺した詩歌を身近に感じます。

写真資料も多く、知らずと詩人の生涯へと想いを馳せてしまいます。

日本的なリリカル、どこか神性を含んだ自然描写とそれに込める個としての情感の透明さ。

時代の筆跡を踏襲しながらも、独自の美学が貫かれています。

この書籍の編纂と出版にかかったであろう多くの苦労と、残されるべき作品へ訪れる運命。

それらに胸打たれる、素晴らしい造りの良書となっております。

塚本邦雄「芳香領へ」 ポーラ研究所 初版函帯

多くの歌集に、そのマニアックでイノセントな感性を実らせた塚本邦雄。

「香り」という耽美のエッセンスをひたすらに煮詰めた本書は、数多の文人の著作の中にあっても独自の存在感を振り撒いています。

エキゾチックな函、金色の箔押しをされたクロス表紙。

また本文下部にては頁毎に芳香植物の図版が付され、エッセイと図鑑という2つの要素が特異な混じり方をしています。

植物に関連した塚本短歌プリントの栞も付属。纏まりのあるサービス心。

数多くの歌集の合間に、ユニークな随筆も手掛けた塚本邦雄。

その揺るぐ事のない美感へと、作品集とは違った角度から迫る内容となっています。

山田登世子「娼婦」 日本文芸社 初版函帯

バルザックの研究者として、またファッションや恋愛分野での著作も多い仏文学者による「娼婦」をテーマとした著作。

図版も美しい物を多く収録し、その魅惑的な存在へ深く切り込んでゆく筆致に引き込まれます。

書籍本体は純白の装丁、それはまったく正しいと思わせる説得力ある装丁です。

ファッションにも造詣の深い著者らしく、図版にも極めて美しい物がセレクトされています。

耽美・幻想分野ならずとも、芸術に於けるテーマとして多く登場する娼婦という存在。

その美しさを丹念に綴った、良質な一冊です。

「山崎俊夫作品集」全5冊揃い サバト館初版函帯極美

あまりに濃密な耽美ゆえに、文学史より葬られた鬼才・山崎俊夫。

生田耕作編集による全5冊揃い全集には、その致死性の抒情があます所なく収録されています。

端正な装丁、上質な紙を採用しながら、函背に切り取られた語句には何者の立ち入りも拒否する様な、無垢で痛切な叫びに満ちています。


三田文学が生んだ、純潔なる退廃。その美文の全て。

「美童」「神経花瓶」「玉虫秘伝」「古き手帖より」「夜の髪」、生田耕作とサバト館により残された作品集に今も棲まうそのデカダン。

希少な書籍ながら現在、店頭にてご覧を頂けます。是非その世界へ耽溺下さいませ。

中田耕治「ド・ブランヴィリエ侯爵夫人」 薔薇十字社 初版函帯極美

伝説的出版社として今なおファンの多い薔薇十字社。

淡いマーブルの見返しも美しい中田耕治による評伝作品。極美本を入荷しております。

初出は澁澤龍彦責任編集「血と薔薇」、鮮やかなコントラストの造本です。

フランス文学とハードボイルドを愛し、演出家としても活躍した著者による密度の高い論調。

メディアミックスという言葉も無かった時代。演劇や前衛音楽、パフォーマンスや芸術を結びつける役割を文学が強く担っていた時代の重要な人物の著作として。

長く読まれるべき1冊と、新鮮な魅力とともに感じます。