中井英夫「黄泉戸契」96/300番極美

良い佇まいの本はそれだけで人を惹き付けます。まして中身は中井英夫ワールド。

「黄泉戸契」、限定300部非売品の番号96。

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箱もカバーも、控えめに付されたタイトル「黄泉戸契」も、中にある物語への期待を否応なしに高めてくれます。

本文を閉じ込める枠線も、細密な未完である作品に、この上なく効果的に作用しています。

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物語が紡がれる物である以上、終らなかった物語をファンや読者は抱えてゆかねばならないけれど。

そんな時、その物語には最も美しい形の中に在って欲しいと、願いは止みません。

澁澤龍彦「旅のモザイク」初版帯カバー

自ら出不精を名乗っていた書斎の超人・澁澤龍彦。

重い腰をあげた氏の、軽やかな旅行記。写真も豊富に、いつにもまして筆先は楽しげです。

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暗い色味の装丁も多い著作の中では、どこかカバンに入った姿が似合いそうなデザイン。

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海外、国内と、旅行記としては少ない訪問先ながら、一ヶ所一ヶ所で見つけ出す物事の多さに脱帽します。

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膨大な蔵書の中で培った目は、書斎を越えて世界の全てから麗しい色々を見出だすに至ったのでしょう。

それは何よりも幸せな才能であったに違いありません。今もその目線は著作を通して、あちらこちらと見聞録の途上です。

夢野久作「ユメノユモレスク」 扉絵三者署名入り極美新刊スリップ付き

国書刊行会による新規全集発行のニュースに上がる歓声の多さに、改めてファンの多さを感じる夢野久作。

新しい代表作の一つとして、「ユメノユモレスク」と現代的挿画の出逢いに、また夢野作品のユニークな象が結ばれました。

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挿画装丁が物語の味わいに与える影響は、やはり多くあるようです。美麗。

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扉絵はそれぞれ、アルフォンス井上・杉本一文・林由紀子・宮島亜紀の四人が担当。

それぞれの画風は違えど、巻末の言葉が全てを語っている気がします。

「愛しています。」

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文学作品としては勿論、ある意味純粋すぎる画家たちとの出逢いにより新しい景色も見出だせるであろう一冊。

夢野入門としてもお奨めしたい書籍です。

塚本邦雄「夏至遺文」初版カバー

数多くの句集を通じて、精神や神経の甘い軋みを描写した塚本邦雄。

こちらは数少ない小説、のうち極短い作品を集めた夏至遺文。一篇一篇が、鮮烈です。

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本文、表紙、共に良好な状態。

鮮やかなイエローの栞紐も時折作品を読む目に刺激になります。

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ショート作品特有の読みやすさと没入感はそのままに、どこか熱に浮かされたような心地よさ。

夏が一番遠くなった今、読みたい作品です。

泉鏡花「斧琴菊」初版美本

生田耕作による紹介や幻想文学ブームなどを経て、現在また愛読者を増やす泉鏡花。

雪岱の装丁も美しい「斧琴菊」、初版の物が入りました。

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極めて品の良い配色にモチーフ、経年の痛みも軽度に済んだ良い保存状態です。

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開く姿も美しく、書斎の灯りや木材の背景に収まります。

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日本の幻想文学の最初の一人とも目される泉鏡花が日本的なる美より取り出した夢の結晶は、時を経るほど美しさを増して、読者の前に何度でも姿を現す様です。

秋の涼しく長い夜にこそ開きたい、厚手の一冊です。

特別編 日夏耿之介「転身の頌」 中央公論社三重函入り極美本

[書肆ゲンシシャ古写真展 蔵書コーナー出品書籍より]

日本の初期耽美派における偉大な柱の一人、日夏学匠。

その処女詩集「転身の頌」、中央公論社より限定復刊186/300番。

三重函も厳めしく、初期衝動に溢れた若き日の探求者の言葉が木霊します。

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流石本体にはヤケ傷破れどころか塵のひとつも付かず、大切に守られた最初の言葉。

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当時の銘文も再現。暴かれども暴かれども、枯れる事のない言葉の墳墓、金言の泉。

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今見る復刻版とは趣を異にする、神経質なまでの豪華さと再現性のバランス。

この本から彼の作品に傾倒してゆく読者がいれば、それはとても幸せな出逢いに違いありません。

書肆ゲンシシャ様のストレートに文学を愛する側面を感じる出品です。

特別編 テリ・ワイフェンバッハ写真集「Between Maple and Chestnut」 ナズラエリ社美麗印刷装丁本

[書肆ゲンシシャ古写真展 蔵書コーナー出品書籍より]

ただの庭先、ただの草花、なんの工夫もないポーチからの景色。

圧倒的な「普通」に潜む法悦的なまでの美しさをカメラ1台で切り取ってみせる写真家ワイフェンバッハ。

造本と印刷に定評のあるナズラエリ社との黄金タッグにて、木漏れ日の狭間より。

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クロス貼りの色味も質感も、目への滋養たっぷり。優しい、です。

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作品のクレジット以外はひたすら大きく写真だけをプリント。

写真集としてこの上ない在り方。

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滲んだように溢れる色彩と生命の鼓動。

それが涙によるものなら、それは午睡のあくびに、不意に差す日光の明るさに浮かんだ物でしょう。

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ただひたすら、穏やかさと優しさを瞬間の美に宿した写真群。

ヨガなどを利用したリラクゼーションやセラピー関連の人々からも圧倒的な支持を受ける彼女の作品。

造本のクオリティの異様な高さもプラスされ、命の強さが視角を通して分け与えられる最高の鑑賞体験を御約束できます。

特別編 夢人館「ゾンネンシュターン画集」 岩崎美術社初版帯極美

[書肆ゲンシシャ古写真展 蔵書コーナー出品書籍より]

ドイツと二度に渡る大戦が生んだ狂気の色彩と捩れゆくフォルム。

シュルレアリストの称賛を受けながらも、それすらからもアウトサイドを歩もうとした狂画家の貴重な画集、夢人館の光る功績。

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書籍として丁寧に作られ状態は良好に、ページを繰ればめくるめく幻想、否、幻視の世界。

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それが何なのかは辛うじて分かるがそこが何処なのか分からない、そこがどういう処なのか想像はつくがそれが何なのか、分からない。

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理性による感知と感情にダイレクトに変換されるイメージ、いつか境目は溶け合い、奇異な色彩と形態の洪水に安堵を覚えはじめたら。

そこはもう、世界の外側かも知れません。

一人のアウトサイダーアートの作家を扱った画集としては異例なボリュームの本書は、資料としては勿論、ドコカへの旅のお供にもピッタリです。

 

特別編 シャルル・ペロー傑作童話集「眠れる森の美女」 ギュスターヴ・ドレ挿画

[書肆ゲンシシャ古写真展 蔵書コーナー出品書籍より]

各地に散らばる童話を蒐集・研究し、当時を生きる子供たちへ語りかけた「はじまりの児童文学者」ペロー。

明瞭な陰影がどこかダークなドレの大判の挿画を添えて、大人でも楽しめる娯楽作品としての一冊に仕上がりました。

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帯に傷みあり、ですがその他は良好。本体のラベンダーに金の押し加工はいかにもメルヘンながら豪奢。

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一時期流行した残酷系の童話再解釈とは一線を画する丁寧で清潔で、しっかりとした教養と知性に満ちた原初の童話世界。

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珍しい赤頭巾ちゃんの頭髪全景、ゆたかに波打つ髪が当時の少女らしさをリアルに。

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過度で先鋭的な方向へイメージを走らせる事は、その基礎となる部分に土壌としての豊かさがあってこそ。

今でも新鮮さを失わない、希望と善性に立つ存在としての童話世界の住人たち。

彼らと何度でも再会できる幸運に安心しつつ、ページを閉じる事に寂しさを感じつつ、古典は素晴らしいの一語です。

特別編 阿部公房「事業」 ビブリオマーヌ刊行アクリルケース入り限定223/300部

[書肆ゲンシシャ古写真展 蔵書コーナー出品書籍より]

圧倒的な装丁のクオリティと少部数発行、潔癖なまでの選書。

佐々木桔梗氏による伝説的な美麗装丁本出版社・ビブリオマーヌより阿部公房「事業」。

ユートピアの文字がモダンかつ暗示的な限定223/300部、書肆ゲンシシャより会期限定にて到着しております。

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アクリルケースに閉じ込められ、守られた拘り満載の本体。

発売当時の柔らかい白色を湛えています。

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このような出版物があった事にただただため息が出るばかり。人肉食を扱った際どい作品ながら、佇まいは不気味なまでに静けさに溢れています。

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本文の端を敢えて裁ち切らず、触感に訴えるこう言ったディテールもまた物語への奥ゆかしい味付けに。

ショッキングな文化にも切り込み、蒐集し、美学を再発見してゆく書肆ゲンシシャ様らしい、おぞましくも美しい一冊です。