萩原厚生譚 ピエエル・ルウイ「妖婦クリシス」 大正13年再版・発禁本

補修跡も痛々しく、そして誇らしく。

萩原厚生訳によるピエール・ルイス「アフロディーテ」(妖婦クリシス表記)、大正期より発禁本の入荷です。

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カヴァーの破れをタイトルシールで塞いだりと、この本の辿った過酷で、そして愛に満ちた歴史を窺わせます。

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発禁印、血のように紅く。

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海外文学輸入の急先鋒として目にする機会も多い春陽堂、その陰に積まれた多くの悲劇の一冊。

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当時の基準とは言え、発禁処分に付されたルイスの名著、田辺の秀訳。

100年ほどの時を傷付きながらも生き抜いたこの本には、愛されるべき確かな美文が今も収まっています。

田辺定之助訳 テオフィル・ゴーチェ「スピリット」 初版極美 

目に見えないものたちの美と神性を極めて鮮やかで表情豊かな描写の内に留める事に成功した傑物・ゴーチェ。

田辺定之助の名訳により1866年の幻想美が現代の風景の中にまたも宿ります。

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黒をベースにしたシンプルで重厚な造りは、過剰な誇示を嫌ったゴーチェ本人も気に入るのではないでしょうか。

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かっちりとした印章を受ける文字組も原作者の好みを反映した様、こうした厳格さにむしろ馴染んで行く幻想の奔放さはゴーチェの本領でありましょう。

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月報付きの極美本、夜にふる雪のように白いページ。

ベットサイドにそっと置いて愛でたくなる一冊です。

生田耕作訳 A.P.マンディアルグ「ポムレー路地」 サバト館初版極美訳者署名刊行時新刊スリップ付

生田耕作の代表作にしてマンディアルグの代表作、そして恐らくサバト館が最も刷った本の1つ。

押しも押されぬ「ポムレー路地」、今もこの本からマンディアルグ、そして生田耕作作品と出逢う方も多いのではないでしょうか。

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一目見てそれと分かる、品格ある完成された表紙デザイン。

青みを帯びさせ刷られたモノトーンの写真に気概を感じます。

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豊富な写真と合わせて繰り出される猥雑で混沌とした、品のある哀愁。幻想に至る痛み。

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この本には鈴木書店扱いの新刊スリップもあり、書店の一般流通網を通すファン層の拡大も伺えます。

現代においても活発な熱量を持つファンや作家、研究家たちが、その美学を継承しています。

様々な意味で美しい1冊、どうかこの本もそんな人たちに渡りますように。

松本完治訳 ラトヴィン・イヴシック「あの日々のすべてを想い起こせ」 エディション・イレーヌ発行、ブルトン没後50周年記念刊行品 訳者署名入り完本

先日のシス書店様におけるブルトン没後50周年記念イベント。

フランス大使館の全面的なバックアップを受けての「シュルレアリスム集大成」に相応しいその大舞台にて刊行された、記念刊行物4種の内の1冊。

現在の京都が誇る巨人・松本完治の妙訳にて、ブルトンの最期を看取ったイヴシックの熱く静かな回顧録です。

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白い本が2つ、赤い本と緑の本が1つづつ。

こちらは白の片方にて、小ぶりの1冊。ながらも漂う、書籍としての存在感。

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写真も豊富に、晩年のブルトンの仔細な呼吸が、思考の足音が、モノトーンな紙から聞こえてくるようです。

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ブルトンのサインの横に、松本完治の署名。誰よりも生田先生に見せたかったのではないでしょうか。

今は生田耕作署名本の納まったガラスケースに並べております。

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しかし、回顧録であり没後展における刊行物であれど、この書籍はシュルレアリスムの未来を真っ直ぐに指向する輝度に満ちています。

これからの芸術、文芸を担い、味わう方にこそ是非読んで頂きたい1冊です。

澁澤龍彦「旅のモザイク」初版帯カバー

自ら出不精を名乗っていた書斎の超人・澁澤龍彦。

重い腰をあげた氏の、軽やかな旅行記。写真も豊富に、いつにもまして筆先は楽しげです。

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暗い色味の装丁も多い著作の中では、どこかカバンに入った姿が似合いそうなデザイン。

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海外、国内と、旅行記としては少ない訪問先ながら、一ヶ所一ヶ所で見つけ出す物事の多さに脱帽します。

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膨大な蔵書の中で培った目は、書斎を越えて世界の全てから麗しい色々を見出だすに至ったのでしょう。

それは何よりも幸せな才能であったに違いありません。今もその目線は著作を通して、あちらこちらと見聞録の途上です。

特別編 夢人館「ゾンネンシュターン画集」 岩崎美術社初版帯極美

[書肆ゲンシシャ古写真展 蔵書コーナー出品書籍より]

ドイツと二度に渡る大戦が生んだ狂気の色彩と捩れゆくフォルム。

シュルレアリストの称賛を受けながらも、それすらからもアウトサイドを歩もうとした狂画家の貴重な画集、夢人館の光る功績。

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書籍として丁寧に作られ状態は良好に、ページを繰ればめくるめく幻想、否、幻視の世界。

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それが何なのかは辛うじて分かるがそこが何処なのか分からない、そこがどういう処なのか想像はつくがそれが何なのか、分からない。

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理性による感知と感情にダイレクトに変換されるイメージ、いつか境目は溶け合い、奇異な色彩と形態の洪水に安堵を覚えはじめたら。

そこはもう、世界の外側かも知れません。

一人のアウトサイダーアートの作家を扱った画集としては異例なボリュームの本書は、資料としては勿論、ドコカへの旅のお供にもピッタリです。

 

特別編 シャルル・ペロー傑作童話集「眠れる森の美女」 ギュスターヴ・ドレ挿画

[書肆ゲンシシャ古写真展 蔵書コーナー出品書籍より]

各地に散らばる童話を蒐集・研究し、当時を生きる子供たちへ語りかけた「はじまりの児童文学者」ペロー。

明瞭な陰影がどこかダークなドレの大判の挿画を添えて、大人でも楽しめる娯楽作品としての一冊に仕上がりました。

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帯に傷みあり、ですがその他は良好。本体のラベンダーに金の押し加工はいかにもメルヘンながら豪奢。

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一時期流行した残酷系の童話再解釈とは一線を画する丁寧で清潔で、しっかりとした教養と知性に満ちた原初の童話世界。

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珍しい赤頭巾ちゃんの頭髪全景、ゆたかに波打つ髪が当時の少女らしさをリアルに。

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過度で先鋭的な方向へイメージを走らせる事は、その基礎となる部分に土壌としての豊かさがあってこそ。

今でも新鮮さを失わない、希望と善性に立つ存在としての童話世界の住人たち。

彼らと何度でも再会できる幸運に安心しつつ、ページを閉じる事に寂しさを感じつつ、古典は素晴らしいの一語です。

夜想 特集「モダン」

我らが夜想、バックナンバーより特集「モダン」。

機械・歯車・飛行機・セルロイド…。現代の幻想美術において一角をしめる人工的なるものへの郷愁。

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この号の表紙・裏表紙は本当に額に入れたいくらい美しく、品の良いデカダンを溢れさせています。

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内容も勿論充実した夜想仕様。

今は語られる事の少ない芸術家、散発的に盛り上がったムーブメント、流れ星のようなイメージ…。

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モダン、という広すぎる空の中に、刹那的な輝きをその闇に引いて。

機械的な物への郷愁とは、翻って人の温もりへの欲求なのだと、誰かの言葉。

愛好家の方へ選りすぐったとっておきの古雑誌も色々と取り揃えております、どうかお気に入りの物に出会えますよう。

バタイユ「松花状眼球」 生田耕作訳・署名 サバト館初版極美完本

バタイユの傑作「松花状眼球」、生田耕作訳署名入り・サバト館。

当店らしいと言えばこの上なく、サバト館含めた色々な美装本への最初の一冊としても人気の作品です。

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落ち着いた深みのあるグリーン、大きくとられた余白、無駄な情報の一切がない表題、文字組。

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耽美的である事、という事と極めてシンプルである事。

バタイユの描く余分な肉を落としたような純粋な松花状眼球のエロスに、機械的なまでにカチリ、とはまります。

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訳者による構成案を巻末で辿れるのも本書の魅力。

芸術の在り方を探る読書の徒の杖に、きっとなりうる良書です。

バルベー・ドールヴィイ エピグラム集「高貴なる人々に贈る言葉」宮本孝正・訳編

シュルレアリストにも愛された「ダンディなる貴族」、ドールヴィイの高貴な言葉の数々。

レイピアのように鋭く、煌めきをたたえ。宮本孝正の名訳と現代を生きる人々へ。

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単行本ながらこういった本には、やはりシンプルで品のある装丁が求められます。絶妙。

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家の没落を経験し、俗世にまみれる内に身に付いたダンディズム。

本来の身の高貴さも飲み込んだ彼の言葉には、何よりもしなやかで美しい強度のような物が宿っています。

読書家への入り口にも適した適度な緊張感が読みごたえありな良い一冊です。